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倭(ヤマト)しうるはし

~わが国が「倭」と呼ばれていた上古の面影を今につたえる風景や風物など・・・いにしえのヤマトをしみじみと~

古代祭祀の面影

流し雛 ~雛祭りのルーツとは~

流し雛 ~雛祭りのルーツとは~
●お雛さまのそもそもの原型は,人形(ヒトガタ)流し

去る3月3日は,いわずと知れた雛(ひな)祭り。現在では,壇上に中近世の宮廷装束姿をした雛人形を飾って祝い事などをするものなのですが,このようなスタイルが出来上がってきたのは江戸時代あたりのこと。
 それ以前の雛祭りがどのようなものであったか,そのあたりのルーツについて考えることは,このブログで古代祭祀を扱っている身には,実は興味深い作業です。



流し雛 ~雛祭りのルーツとは~
●岩槻の流し雛(2013年3月3日)

現在よく見る雛飾りなどを見ていると,古代史などとは何の接点もなさげに思える雛祭り。実はそのルーツのひとつには,罪穢れを祓うための人形(ヒトガタ)があるといわれています。そう,今も神社で夏越や年末の大祓えのときに使う形代(人の形をかたどったシンプルな紙)のことです。
 律令時代(701年~10世紀前半)のことになりますが,「延喜式」にいう「夏越しの大祓(6月末)」,「年越の大祓(12月末)」にあわせて,上巳の日(3月3日)にも同様に,草木や紙で人形(ヒトガタ)をつくり,これに罪穢れをうつして川や海に流し去っていました。事実,そのように使われたと思しき人の形をした木簡など平城京跡から,また,沖ノ島遺跡では奈良時代の祭祀跡から石製の人形(ヒトガタ)が発掘されていたりするわけです。
 現在でも,各地の神事や民俗行事として行われている「流し雛」は,その古い雛祭りのスタイルが残っているものだといえます。


【さいたま市岩槻の流し雛】
流し雛 ~雛祭りのルーツとは~
流し雛 ~雛祭りのルーツとは~
流し雛 ~雛祭りのルーツとは~
●各自,手にした雛を水面に浮かべ(上),祈念します(中)。水面にあまた漂う流し雛(下)。

雛祭りのルーツということだけならば,罪穢れを祓う人形(ヒトガタ)。年代的には奈良時代あたりまで遡れるということになるのですが・・・それ以前,すなわち古墳時代あるいはそれ以前に遡るとどうなのかといえば,正直なところ,雛祭りないし雛行事に直接かかわるような情報はありません。従って,この手の風習が我が国でいつのころから始まったのかも定かではないのです。
 ところで,古代中国においても,「桃花節」という,上巳 (3月3日)に禊(みそぎ)を行う風習があり,それが日本列島に伝播した可能性も大いにあるので,雛行事が古来からの日本オリジナルのものであるかも一概には言えないのです。
 しかしながら,古墳時代においては水の祭祀が行われていたことは,このブログで以前にもご紹介した通り(※)ですし,泉や河川への崇拝や流水によって穢れを祓い清めるという禊(みそぎ)の概念は確実に存在しました。はっきりとわかっていることは,流し雛は,雛行事の古型をとどめるものであり,我が国が「倭」と呼ばれていた上古の昔からあった禊(みそぎ)の一形態であるということです。


流し雛 ~雛祭りのルーツとは~
●上巳節句祭の形代流し。上総一宮の玉前神社では,雛祭りの日に古式にのっとって人形(ヒトガタ)を海へと放ち流します(写真資料は玉前神社より提供)

少なくとも,「流し雛」という行事自体は律令時代より前に遡ることが,仮に,無かったとしても,いわゆる水祭祀,禊(みそぎ)など,「罪穢れの祓いとしての雛行事」が容易に生まれるだけの素地が,上古の倭国にはすでに十分に備わっていたのではないでしょうか。


“水に流す”

ご存知のように,手に負えなくなった揉め事や問題などを清算するときによく使われることわざ。この便利で他愛のない文言の裏には,実は,我々の遠い祖先たちの原初信仰にまで根差すかもしれない深遠な歴史が脈々といきづいているのかもしれないですね。

その後,律令のころ行われていた流し雛の習慣が,平安時代後期(王朝時代),貴族の子女の間で流行していた人形遊び(「ひいなあそび」と言います)と結び付き,上巳 (3月3日)の日にお祓いの祈念を込めて男女一対の人形を身近に飾り,翌日には自分の穢れを移した人形のお清めをするために神社などに納めるようになったといいます。この当時の男女一対の人形はビジュアル的には近世または現在の豪華な雛人形とはかなり趣が異なるものだったと思われますが,時代を経て,次第に人形を飾ることがメインになり,それに伴って人形も豪華なものへと変貌を遂げて,江戸時代には,現在見られるようなものとほぼ同様な雛飾り&雛祭りが誕生したということです。


流し雛 ~雛祭りのルーツとは~
●久伊豆神社の雛飾り(さいたま市岩槻区。2013年3月3日)


(参考文献)
・ 3月3日 上巳の節句(京甲冑 平安武久HP)
・ 雛人形と雛祭りの起源と歴史 (十二段屋編)


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